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カラスと京都

 柄にもなく自伝的なエッセイなど書いてしまったが、この本、いささかタイトルに偽りがある。「カラスと」というタイトルがついているが、それほどカラス成分が多めではない。カラスについて書いた部分も学部学生時代の観察記録なので、大した内容ではない。フィールドノートから現場を再現したので、ある意味で非常にリアルなのは保証するが、読んでもカラスについて「お勉強する」ことは不可能である。
 また「京都」とある割に、百万遍と出町柳と、せいぜい三条木屋町くらいしか出て来ない。芦生は出て来るが、普通に「京都」と聞いて連想するところではない。なぜか屋久島は出て来る。よって、京都のガイド本とも言えない。

 では何が書いてあるかというと、「大学ってオモロいとこやったわー」という、ただただ、それだけである。折田先生像がその姿をコロコロ変える中、私は大学に通い、授業に出ていた。今考えてみたらとんでもない「大物」の授業もたくさんあったのだが、ペーぺーの学生は怖いもの知らずでキャンパスを闊歩し、畏れ多くも教授の品定めなどしていた。古本屋で教科書を買い、益体もない青臭い妄想を巡らせ、安酒に酔いしれ、将来に莫とした不安を抱き……
 などという真面目な青春放浪記を描くのは私の流儀ではない。語ろうにも、そんな真面目なことをそもそもやっていない。ここに描いたのは、動物学が好きで授業を受けたり野外調査の真似事をしたりしながら過ごした、アホ学生の数年間である。そこに何か一抹でも見るべきものがあるとすれば、「アホなことやっとるなあ!(笑)」という、生暖かい褒め言葉としての「アホっぷり」であろう。
 そのアホさ加減が、思い返せば限りなく懐かしかったのである。                             松原 始

        カラスと京都
        松原始(東京大学総合研究博物館)
        1500円+税(※本書は非再販商品です)
        ISBN 978-4-908194-03-0
        発行元: 旅するミシン店
        一部書店のみの取り扱いですが、
            河原町丸善では入手可能です、

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