鳥類史上最も多く生息した鳥が絶滅する…。そんな悪夢がアメリカで現実になりました。
鳥の名前はリョコウバト。北米・東海岸に生息し、中部やメキシコ湾岸で越冬するハトで、18世紀には50億羽いたと推測されています。
アメリカの鳥類学者であり画家でもあるオーデュボンは、その渡りを目撃し「空を覆い尽くすような群れが3日間途切れることなく飛び続けた」と日記に記しているそうです。
オーデュボンが描いたリョコウバトの絵(パブリックドメイン)
その夥しい数の鳥が絶滅した原因は乱獲。肉が美味だったことから食糧として大量に捕獲されたほか、羽根布団の材料にも使われたようです。
1890年代には数が激減。保護が試みられたものの手遅れで、1914年に動物園で飼育されていた個体(名前はマーサ)が死亡し、リョコウバトは絶滅しました。
最後の1羽となったリョコウバト「マーサ」(パブリックドメイン)
この悲劇を題材にして日本の作家が小説を書いています。そのタイトルが『オーデュボンの祈り』、著者は伊坂幸太郎。第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、映画にもなっています。小説の中では以下のように記されています。
ジョン・ジェームズ・オーデュボンはケンタッキー州で、リョコウバトが渡っていくのを見つけた。一八一三年だった。
空は鳩で日食のように暗くなった。翼の音が絶えず鳴っていて、聞いているうちに眠くなった、と彼は記している。
大量の糞を撒き散らしながら飛ぶ、絨毯のような偉大なる鳩の群れ、オーデュボンはリョコウバトに感動する。三日間、リョコウバトは彼の頭上を飛び続けていった。
この小説をひとことで言うとファンタジック・ミステリー。リョコウバトが日本の離島に逃げてきて、人間に復讐を仕掛けるという伏線があります。登場人物の一人が、上掲のオーデュボンの絵のコピーを大切に持っていたりもします。
「あまりにも数が多すぎた。数が多いことが人を鈍感にしたんだ。いくら虐殺しても絶滅につながるとは思えるわけがなかった。おそらくオーデュボンだって、リョコウバトが消えるとは予想していなかっただろう」
作者は愛鳥家ではないようですが、登場人物にそう語らせています。日本にもトキやコウノトリのように、昔はたくさんいたのに乱獲や環境破壊のために絶滅した鳥がいます。現在のツバメやスズメのような身近な鳥でも、私たちが鈍感であれば絶滅することはあり得るわけです。
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