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カラス本2冊

 最近、カラスの本が2冊立て続けに出版された。少し前にカラスの知能の本が2冊続いたが、今回、1冊は文化的側面にも注目した「カラスの文化史」(エクスナレッジ)。そして、もう1冊は待望の(?)カラスの写真集、「スーパービジュアル版・にっぽんのカラス」(カンゼン)である。

 「カラスの文化史」の方は監修しただけで、しかも時間的余裕がかなり厳しく(どうやら他の方に依頼して断られてから私のところに回って来たようだ)、「生物学のとこだけ見ますよ、文化史なんて知りませんよ、それでいいですね?」と念押ししてから関わった。なのにデカデカと「監修 松原始」と入っているのは、いいのか? 私よりよっぽど頑張ったのは翻訳者のはずである。実際、非常に丁寧に訳そうとしているのが原稿を見ればよくわかった。
 それはともかくこの本、普段はあまり触れない欧米文化の中のカラスを垣間見るには面白い内容である。北米先住民の神話に登場するカラスが神のくせに結構ヤンチャなのは知っていたが、これほど身も蓋もない、いい加減な奴とは知らなかった。もっとひどいのはアボリジニの伝説に登場するカラスで、彼らが一体なんのために人間を作ったか、それは読んでのお楽しみである。カレドニアガラスやワタリガラスの知能については、研究者にインタビューもしている。聞いた相手はトマス・バグニャーやニコラ・クレイトン、ネイサン・エメリーなど、第一線の研究者だ(最近出たエメリーの『実は猫より賢い鳥の知能』は、邦題が今ひとつだが、真面目で面白い本である)。
 ただ一点、本書に登場する「仲間の怪我を手当てしたカラス」については、自分の目で見るまでは信じないつもりである。原著者も伝聞として書いているので確かめようもなく、さりとて翻訳本で「これは納得いかないから掲載するな」というのもおかしな話なので、そのままになっている。

 「にっぽんのカラス」の方は、これまで何度か企画だけはあったが、そのつど全て潰れてきた、カラスの写真本だ。出版社はカラスの写真企画にはいい顔をしない。金をかけてカラー印刷して、出来上がりが真っ黒なカラスでは編集長が怒り出すのもわからなくはない。それをいくつもの出版社に交渉して喰らいついてくれた編集エージェントの手腕の賜物である(この本は編集者からの持ち込み企画なのだ)。
 そして、この本の強みは、「カラスは真っ黒なんかじゃない!」と知らしめる宮本桂氏の美しい写真である。氏の撮影したカラスは光輝き、その一方でちゃんと黒く、艶やかで艶やかな姿を見せる。飛行中の翼や換羽の状態など、見過ごしがちなディテールも抜かりなく押さえられている。カラスのおしり、まして総排泄孔を捉えた写真なんて、見たことありますか?
 つまり、この本の主役は写真であり、宮本氏である。なのだが、こちらにも監修・著・松原始と大きく書いてあるのが非常に申し訳ない。最初は写真にちょっとした解説をつけるだけのはずだったのが、編集者が台割りを持って来たらずいぶん文章が増えていたのである。さらに、珍しい試みだが、様々なカラスに関する論文をいくつか取り上げて解説するページもついた。いってみれば、これは「カラスの教科書」に対する「参考書」あるいは「便覧」である。
 ただし、こちらも一つ、ただ一つだけ、苦言を呈したい箇所がある。帯につけられた筆者のイラストが、当社比20歳くらい老けている点だ。自分がいい加減オッサンであることを認めるにやぶさかではないが、まだジジイではないつもりである。松原 始

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