『百人一首』に「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の 長長し夜をひとりかも寝む」という柿本人麻呂の歌があります。「長い」の序詞になるほど、ヤマドリの尾は長く、全長は125cm。
しかし、古典文学の世界では、長いものを表現するだけでなく、男女が別々に寝ることの象徴としてもヤマドリが登場します。昔の人は夜になると雌雄が谷を隔てた山に分かれて眠ると認識していたようです。
例えば、『新古今和歌集』には「昼はきて夜は別るる山鳥の 影みるときぞ音はなかれける」という歌があります。
また、清少納言は『枕草子』で自分の好きな鳥を記述していますが、ヤマドリについて「谷隔てたるほどなどいと心苦し(雌雄が谷を隔てて寝ている夜の間はとても気の毒)」と書いています。
前述の百人一首の歌も、「山鳥」は夜の長さだけでなく、最後の「ひとりかも寝む」にもかかっているようです。
なぜ昔の人は、ヤマドリが雌雄別々に寝ると認識したのか? 気になったので調べてみました。
平凡社『日本動物大百科・鳥類Ⅱ』によると、「雌雄を同居させておくと、よほど広い小屋(放飼場のような)でないとオスはメスを殺してしまう。これはメスが交尾を受け入れる時期が限られており、交尾期以外にはつがい関係がないことを示唆している」。
こういう生態を知っていたからこそ、昔の人は「ヤマドリ=雌雄別々に生息する鳥=一人寝の鳥」というアイコンを成立させたわけですね。
実は、わが家も夫婦別々の部屋で寝ています。私のイビキがうるさいという身も蓋もない理由からですが、最近は就寝時間が異なるとか、テレビやパソコンなど夜の過ごし方が違うとかで、こういう「ヤマドリ夫婦」が増えているのではないでしょうか。
お宅はヤマドリ夫婦? それともオシドリ夫婦?
なお、上の動画は昨年大阪府北部に現れたヤマドリのペア。雌雄仲良く、同じ場所に1カ月以上滞在したようです。夜、別々に寝たかどうかは不明です。
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