森鴎外の代表作に『雁』があります。どんなシーンにガンが登場するのか気になって読んでみました。
物語の後半、主人公を含む3人の学生が上野の不忍池の周りを歩いているとき、1人が「池にいるガンに石を投げよう」と言い出します。主人公が「それは可愛そうだから」と、ガンを逃がすために石を投げるのですが、運悪くその石が当たってガンは死にます。
さらに、そのガンを寮に持ち帰り、鍋にして食べるという、バードウォッチャーには読むに耐えないストーリーでした。
マガン(支部ホームページ「野鳥図鑑」より)
ただ、持ち帰る途中、交番の前を通るときにコートでガンを隠すくだりがあり、当時も野鳥を捕獲することに後ろめたさがあったことをうかがわせます。
「明治時代とはいえ、不忍池にガンが渡来したのだろうか?」と疑問になって調べたところ、当時の文人が次のように記しています。
「本郷あたりにいると、秋の末から冬の初には、ほとんど屋根をかすめて飛びまして、例の船の舵の音に似たような、趣のある雁の声を聞いたものであります」。
この頃は都心にもガンが渡来していたわけです。
鴎外はこの作品の中で、死んだガンを拾い上げるために池の中を歩く同僚の姿をサギに例えています。また『雁』のほかに『鴉(からす)』という翻訳作品もあります。そもそもペンネームの「鴎」はカモメです。鳥に関心があったのでしょうか。
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