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古い記録

 先日京都大学のある施設へ行くことがあって、そこにあった木材関係の収蔵庫を見ている時、ふと目にとまった棚に古い剥製が並んでいた。関係者の立ち会いのもと少し見せていただくと戦前海外にあった演習林で収集したらしき野鳥の標本だった。採集地はカラフトや朝鮮と記載されていた、エゾライチョウ、コウライキジ、シノリガモなどなど、中でも気にかかったのはスズメフクロウだったけど今では希少種とされているくらいでよく解らないし標本もずいぶん痛んでいて知らない人がみたら”ごみ”って捨ててしまうようなものであった。

 剥製ってあんまり楽しくないけど何十年も前にもっと豊かな自然の中を動き回っていたんだなぁと思うと現実と空想の狭間を行き来できる気分になれるのである。
 専門家にスズメフクロウについて聞いてみました。質問は「カラフトスズメフクロウってどんな鳥 ? 否、カラフトってついてなかったかも知れない」と曖昧なものでした。貴重な標本に接することができたのにただ外見を見ることに終始し学名等には無頓着で「種類はなんて書いてあるかなぁ」くらいしか意識してなかった。

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 和名というのは時代とともにけっこう変わります。戦前と今とでは相当違っています。学名も同じく変わるのですが、こちらは変化の足跡がわかるのです。こういうケースでは、和名ではなく、学名を確認するのが大切になってきます。学名がわからない以上、推測混じりになりますが、戦前のコレクションだとすると、現在の日本周辺の種類が混じっていると考えるのが普通です。そこで、カラフトスズメフクロウと呼ばれるとしたら、Galucidium passerinumのことだろうと思います。スズメフクロウというグループ名はGalucidium属のフクロウに付けられるのが普通ですし、日本周辺に生息するスズメフクロウ属Galucidiumの種は2種。もう一つはヒメフクロウG.pardalotumですが、こちらは南方系の鳥。樺太に分布するのは、Galucidium
passerinum
だけです。Galucidium passerinumの和名は普通は、スズメフクロウで、山階図鑑にもこちらの和名で載っています。が、ヨーロッパの基亜種に対して、東アジアに分布するGalucidium passerinum orientaleをカラフトスズメフクロウと呼んだのかもしれません。スズメフクロウGalucidium passerinum自体は、中部ヨーロッパから東アジアまでユーラシアの高緯度地域に広く分布しています。でも、現在の日本ではまだ記録されたことはないんじゃないでしょうか?
            大阪自然史博物館 和田 岳

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