野鳥の音声録音の第一人者・松田道生さんのブログで、録音中のテープに偶然殺人の瞬間の音が入っていたという推理小説を松本清張が書いていることを知りました。タイトルは『二つの声』。面白そうなので、図書館で借りて読みました。
4人の男が軽井沢へ出かけ、集音器をセットして一晩中鳥の声を録音していると、男女の会話が聞こえてきます。帰京後、その部分にフィルターをかけ、鳥の声を取り除いて再生すると、女が首を絞められたような声が入っている…という展開です。
さすがは松本清張、リサーチが緻密で、登場する鳥の種類や声にはまったく違和感がありません。例えば、現地の案内役が次のように説明します。
「この季節だと、日が暮れてから啼くのはヨタカ、オオヨシキリ、ホトトギスなどですな。夜が更けるとアオバズク、フクロウ、トラツグミなどといったものが啼きます。(中略)夜が明けはじめる四時ごろになると、アカハラ、クロツグミ、シジュウカラ、ヒガラなどといった鳥をはじめ、三十種類以上の野鳥が一斉に鳴きはじめますからね。そりゃ壮大ですよ」。
この案内役は野鳥の会の会員という設定で、松田さんは、バーダーの間で有名な星野温泉の社長がモデルだろうと書いておられます。
被害者は殺される直前に、「あれ何という鳥なの? ヨタカ? あれがそうなの。名前だけは聞いていたけど」と言います。ヨタカが推理のキーポイントになっています。
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ヨタカやホトトギスの声は1000サイクル以上だが、フクロウは人間の声と近い500サイクルなので、フィルターをかけても人間の声だけ取り出すことは難しい、というような専門的な描写もあります。
ネタバレになりますが、テープに録音された男女の声は、犯人が別の殺人現場であるホテルの一室で録音したものを流していたというトリック。しかも、その部屋にヨタカの剥製を置き、被害者に「あれ何という鳥なの? ヨタカ?…」と言わせ、あたかも野外にいたかのように装うという緻密な計画によるものでした。
ちなみに、松田さんによると、犯人のモデルは星野温泉の社長の息子。現在、経営不振に陥ったリゾート施設を再生するという事業で成功している星野リゾートの社長です。
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