芥川龍之介に『山鴫』という短編があります。ロシアの文豪、トルストイとツルゲーネフがヤマシギを撃ちに行って意地を張り合うという、いわば文学界の楽屋話。
そんな小説のモデルになるほどトルストイは狩猟好きだったようで、ある時、鳥撃ちから帰って袋から獲物を取り出すと、1羽のヤマシギがまだ生きていたので、羽根を1本抜き、頭を突いてとどめを刺したというエピソードが残っています。
そのヤマシギが出没するという場所に出かけてきました。1回目は6時間待ったものの出会えずじまい。2回目、「主に夕方活動する」という図鑑の情報を頼りに午後3時から6時過ぎまでねばって、ようやく目撃できました。夕方の日陰なので暗いですがご覧ください。
トルストイはこのヤマシギをたくさん殺生したわけですが、なぜか59歳のとき狩猟をやめ、菜食主義者になります。
肉が好きな義妹が訪ねてきた際、生きた雛鳥と包丁を食卓に出し、「君は生き物を食べるのが好きだそうだから鶏を用意したが、僕は殺したくない。この包丁で自分で殺してください」と言ったとか。義妹は雛鳥を放し、みんなで肉なしの夕食を食べたそうです。
後に「肉食をするすべての人が、自分でそれらの動物を殺すことになったら、彼らの大部分は肉食を敬遠するようになるであろう」と書き遺しています。
トルストイをこんな過激な菜食主義者に変貌させたのは、ヤマシギへの殺生に対する自責の念だったのではないでしょうか。
なお、ヤマシギはジビエ料理の最高級食材のようですが、乱獲で減少したため、本場フランスでは狩猟禁止になっています。一方、日本ではまだ狩猟鳥とされていて、環境省はレッドリストには掲載していませんが、京都府は「絶滅危惧種」(=狩猟禁止)に指定しています。
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