鶏の絵で有名な伊藤若冲(じゃくちゅう)は、自宅の庭で鶏を放し飼いし、3年間毎日観察してから描き始めたそうです。また、もともと錦小路の八百屋だったことから、その伝手で魚屋からサンプルを入手したようで、魚や貝もリアルに描いています。
その若冲が野鳥をどの程度リアルに描いているのか興味が湧いてきたので、作品と図鑑を比較しながら調べてみました。まず、タンチョウ。
首の前面だけが黒く描かれていますが、実際のタンチョウは首全体が黒いです。本当のタンチョウを見ずに、おそらくいろんな図譜(当時の図鑑)を見て描いたからではないでしょうか。
次はオシドリ。若冲が描くオシドリのオスには胸に水玉模様がありますが、実際のオシドリのオスにはそんな模様はありません。ただ、メスには水玉模様があります。
これも実物をじっくり観察してわけではなく、さまざまな絵画や図譜のいいとこ取りして描いたのではないでしょうか。さすがの若冲もタンチョウやオシドリを自宅の庭に飼って観察することは不可能だったようです。
だからと言って作品の魅力が半減するわけではありません。若冲は写実的に描こうとしたのではなく、想念の中の鳥を表現したのだと思います。
そのことは、実在しない鳳凰を鬼気迫るエネルギーで羽毛1本にいたるまで細密に、しかも画布の裏側にも彩色するという新しい手法で描いていることからも分かります。
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