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チョウゲンボウの放鳥

京都市内のある場所でここ数年チョウゲンボウ(ハヤブサの仲間)が繁殖しているんですけど、今年は孵化後1週間までの時期に、ヒナがカラスに襲われました。
5羽のヒナのうち残念ながら1羽が死亡、1羽が保護されました。
これは、その保護された1羽に関わってくださった方の記録を、許可を得て、一部アレンジしてご紹介しようと思います。

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自然界の摂理のなかに存在するものを人間が保護していいのかという葛藤もありました。もちろん近くでは親が見ているはずです。
ですから本来は保護しないんですが、いくつかの理由で保護することになりました。

(ご参考)
日本野鳥の会では「ヒナを拾わないでキャンペーン」を展開しています。(その理由については、ぜひリンク先をお読みください。)

保護した理由として
○すでに人間に触られている
○巣の位置が高いということで、巣のそばに戻すことが出来ない
○巣立ち間際に落下し、その後親の保護下に戻った経験は何度かあったが、孵化後間もないこの雛では自らが親のそばには戻れない
○綿羽のみの雛の体温管理が心配

以上の理由などで、まず生き続けることは不可能と判断し、知り合いの獣医さんに連絡を取り、緊急的に保護の段取りをしました。

    落下して獣医院に保護

    8日後

 獣医院での治療のおかげで、成鳥に近い大きさにまで成長しました。

保護から1ヶ月半ほどになり、獣医さんから独立心が芽生えてきたとの連絡を受け、今後のことを話し合うことになりました。
放鳥するか、このまま保護を続けるかです。

大阪府では2009年1月に、野生復帰が困難な個体を含めて一定の対応基準決めた旨の以下の通達がありました。
�保護飼養期間を最長1年とする。
�終生飼養は依頼しない”
とのことでしたので、この通達の基準を参考に総合的に考えて、近いうちに放鳥する予定で行動することになりました。

○放鳥場所の選択
○「人間への刷り込み」からの開放のためのリハビリ

この二点を急がなければならなくなりました。
とくに放鳥場所は、捕食しやすい昆虫類の有無、ネグラの有無、天敵の有無と数を調査しなくてはなりません。
炎天下のなか、三日間連続の現地調査と餌の採集が行われました。

    放鳥予定地で採集されたトノサマバッタを捕まえる

2010年7月25日(日)いよいよ放鳥の日です。
午前9時、放鳥候補地のひとつにて、ゲージからチョウゲンボウを林方向に向け放ちました。
放たれたチョウゲンボウは、まず河川敷上空で経験したことのない逆風を捉え、両翼、尾羽を使い見事に飛翔しました。その後、お別れを言うように三回の旋回ののち、予想どおり林方向飛んで行きました。
今回の放鳥プロジェクトは大成功だったと自負しています。

    いざ大空へ!

    上昇!

    いきなりツバメの洗礼

このプロジェクトで多くのことを学びました。京都府レッドリスト 準絶滅危惧種に指定されているチョウゲンボウの雛一羽を、保護から放鳥までに至らせるだけでも、人員、施設、資金(今回はカンパ)など足りないものが多すぎます。鳥類のみならず、「生物多様性」を維持していくには、気が遠くなりそうな多くのものが必要で、規模も莫大なものとなります。

最後になりましたが、関係者の皆様、事情によりお名前を出せなかった獣医さま、ご協力いただいた皆様、ありがとうございましたと同時に、お疲れ様でした。

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この方にも葛藤があったように、落ちたり他の動物に襲われたりして命を落とすことは、自然の摂理として人間が関知しないという考え方があります。今回もたまたま目に付いただけで、こういうことは日常茶飯事のように起こっていることなのでしょう。

基本的には私も、できる限り人間が関知しないようにという考え方には賛成です。
でも、このモコモコの落ちたかわいいヒナを目にして、放っておいて死ぬのを待つということは、とてもできませんよね。巣立ち雛なら放っておいてもいいのですが、孵化したばかりのこのヒナでは、保護なしでは確実に死んでしまいます。

また、保護しても育てるのがものすごく大変です。
いわゆる、情だけでは成し得ないことなのですが、賑やかな街中でのできごとで、多くの人が何とかしてやりたいという優しい心を持っていただいたことは、情の繋がりが希薄になっている現代社会の中で、心温まる話題だと思ってご紹介させていただきました。
せっかく多くの皆様のおかげで救われた命、立派に生き延びてほしいです。

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